皆さんは「ネット私刑」なる言葉を目にした事はありますか?
これは簡単に言うと「ネット上で加害者やその家族の個人情報などを公開して制裁を加える」行為で、2000年代後半から問題視されている行為なのですが、スマホとSNSの普及でより危険なものになっています。
「ネット私刑」とはどんなものなのか、最近の事例も見ながら紹介させていただきます。
娯楽と化したネット私刑
ネット上で頻繁に行われている「ネット私刑」、スマホやSNSの普及により身近な存在になったのですが、「自分に矛先が向かない」という観点から一般の人も簡単に加わる傾向があります。
自身が全く関係ない事件事故の犯人(容疑者)について、周りと一緒になって罵詈雑言を浴びせるその行為は、無責任なストレス発散になっているのでしょう。
かの有名な小説家芥川龍之介さんは自説「侏儒の言葉」において、「輿論(よろん)は常に私刑であり、私刑は又常に娯楽である。たといピストルを用うる代りに新聞の記事を用いたとしても。」と残しています。
これは人々の意見(ネットの書き込みなど)が私刑になりうる危険性と、私刑が人々にとって娯楽(ストレス発散)になりえる事への警告文でした。
今や誰もがスマホやSNSなどで簡単に情報を発信できるようになり、芥川龍之介さんが危惧した私刑の危うさはより酷い形、「ネット私刑」として浸透しています。
この「ネット私刑」がいかに危険で愚かな行為なのか、最近の事件とその簡単な経緯を見て確認してみましょう。
今月ニュースにもなった「東名高速トラック追突事故」において、ざっくり下記のような「ネット私刑」が発生しました。
- 東名高速道路でトラック追突事件が発生
- 報道で「石橋容疑者」の名前が出る
- ネット上で無関係な「石橋建設」が容疑者の関係会社と拡散される
- 関係ない「石橋建設」社長の個人情報も拡散される
- キュレーションサイトも記事として「石橋容疑者」と「石橋建設」を紹介
- ネット上で罵詈雑言が書き込まれる
- 事件に全く関係ない人々から「石橋建設」に対してイタ電の嵐
- 「石橋建設」社長自宅前に不審な車が泊まるなどの嫌がらせに発展
- 「石橋建設」が全く無関係な会社だと判明する
- 嫌がらせ自体は収束するも「ネット私刑」を行った人間からの謝罪などは基本無し(キュレーションサイトを含む)
まさに全く関係ない企業が犯人関係企業として晒され、果ては社長の個人情報なども拡散し、現実として様々な被害を被る事となりましたが、私刑を行った人間の反省は全く見られません。
また先月にはネット上でのPC売買において、下記のような「ネット私刑」が発生しました。
- とある男女がネット上でPCを取引
- 買取した女性が音信不通になり支払いが滞る
- 出品した男性がTwitterで料金支払いの催促
- 女性がTwitterで「男性に個人情報拡散を盾に性行為を迫られた」と発言
- 男性がこの発言に対して「様々な証拠」を提示
- 女性が別人(少なくとも3アカウント)になりすまし男性に罵詈雑言を浴びせ証拠捏造を行う
- 女性が「でっちあげた証拠」を提示
- ネット上で一方的に男性が悪だと決めつけられ罵詈雑言が浴びせられる
- 男性がネット上で公開していた画像作品などについても罵詈雑言が浴びせられる
- 有志の検証で女性の証拠が「でっちあげた証拠」だと判明
- 有志が無罪である事を拡散
- ネット上での罵詈雑言止まず
- 女性の知り合いが罵詈雑言を謝罪しPC代金を立替え
- 女性は「入院する」とネット上から逃亡
- 女性は別のアカウントで悠々とTwitterなどしている事が判明
- 罵詈雑言は収束するも「ネット私刑」を行った人間からの謝罪などは基本無し
加害者女性が性差を盾に被害者を装い、さらには取引代金を踏み倒し男性の社会的地位を貶めると言う、もはや詐欺事件とも呼べる一件でした(しかも同様の行為を過去にもしていたようです)。
「ネット私刑」という行為そのものがそもそも「土俵の外からの迷惑行為」と同じ性質で、自分に被害がやってこない分かなり好き放題する傾向があり、しかもそれが間違いだとしても無責任に放棄する性質があります。
「同じ土俵にいる当人同士」が罵り合うのは結構ですが、土俵の外から適当な情報を元に罵詈雑言を浴びせたりする行為はなにより卑怯ですし、醜い行為かつ事実と異なる情報が根幹の場合もあるので絶対に行わないようにしましょう。
まとめ
「ネット私刑」がエスカレートすれば、「事件容疑者」や「巻き込まれた無関係者」から「名誉毀損」で訴えられる可能性も十分にありえます。
「ネット私刑」を「正義」だと思って行う人間が非常に多く、多くの場合ストレス発散などの目的で加担する例が後を断たないので、ネット上やSNSでそういう行為を行う人はそもそもフォローなどから外し、発信力を無くしてしまうのが現段階での唯一の対策と言えるでしょう。